細川事務所通信

平成29年10月号 Vol.75

「アホ」「死ね」パワハラで鬱病34歳カンボジア人を労災認定立川労基署


 東京都内の建設会社で勤務していたカンボジア国籍の技能実習生の男性(34)が、上司から「アホ」「死ね」などの暴言を含むパワーハラスメント(パワハラ)を受け鬱病になったとして、立川労働基準監督署(東京)が労災認定していたことが12日、分かった。認定は6月7日付。

 記者会見した男性は「誰と相談したらいいか悩み苦しんでいた。外国人は労災があることを知らないので、これから働く人も助けてほしい」と訴えた。

 労基署の調査復命書などによると、男性は平成26年6月に来日後、建設会社で配管工として働き始めた。直後から言語などの問題で、上司から暴言を吐かれ、工具でヘルメットをたたかれるなどの暴行も受けた。

 27年9月、現場で作業中に電気のこぎりに巻き込まれ、左手人さし指の先端を切断。事故後、社員から「金欲しさにわざと切ったのだろう」などと暴言が繰り返され、病院で鬱病と診断された。

 28年11月に労災申請したところ、立川労基署が今年6月、「上司の言動が業務指導の範囲を逸脱しており、人格や人間性を否定するような言動が含まれていた」と指摘した。

産経新聞 平成29年9月12日 21時57分 配信

 「職場のパワーハラスメント」とは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為です。

 パワハラは大きく6類型に分類されていて下記のようなものが該当します。

  • 「精神的な攻撃」 同僚の目の前で叱責される。必要以上に長時間、繰返し執拗に叱る。
  • 「身体的な攻撃」 叩く、殴る、蹴るなどの暴行を受ける。
  • 「過大な要求」 新人で仕事のやり方も分からないのに他人の仕事まで押しつけ、先に帰ってしまう。
  • 「過小な要求」 運転手なのに営業所の草むしりだけを命じられた。
  • 「個の侵害」 交際相手について執拗に問われる。妻に対する悪口を言われる。
  • 「人間関係からの切り離し」 1人だけ別室に席を移される。コミュニケーションをとらない。

 パワハラを放置すると、パワハラ加害者本人が不法行為責任(民法第709条)を負うとされたケースや、使用者(会社)も使用者責任(民法第715条)を負うケース、使用者が労働者に対し労働契約上負っている安全配慮義務違反(民法第415条)が問われたケースがあります。下記では実際にあった裁判例を紹介します。

「身体的・精神的攻撃」 名古屋地裁平成26年1月15日判決 労働判例1096号76項

【内容】

 会社の代表取締役であるAは、社員Bに対して、仕事上のミスについて、「てめえ、何やってんだ」「どうしてくれるんだ」「ばかやろう」等と汚い言葉で大声で怒鳴ったり頭を叩いたり、殴る、蹴ることもありました。また、仕事上のミスによる損害を賠償するように求めたり、退職願を書くように強要したりしました。社員Bは、家族に対して落ち込んだ様子を見せるようになり、妻とともに警察署に相談するなどしていましたが、その翌々日の早朝に自殺しました。

【結果】

 判決では、代表取締役Aの暴言、暴行は、仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、社員Bを威迫し、激しい不安に陥れるもので、不法行為に当たると評価。また、退職強要も不法行為に当たるとしました。そしてこのような暴行や退職強要によりBの心理的ストレスが増加し、自殺するに至ったとして、Aと会社に対して、妻と3人の子に対する損害賠償としてあわせて5400万円あまりを支払うよう命じました。

 ニュースのカンボジア人男性も、外国まで来てパワハラを受けてしまい、さぞかし切なかったと思います。企業としてパワハラを放置することは、決してあってはならないことですし、百害あって一利なしです。是非、企業のトップが率先してパワハラ予防を訴えてください。

 厚生労働省では、パワハラに関するポスター、従業員アンケート、研修資料などを用意しています。ご興味がありましたら、インターネットで「NO パワハラ」と検索してください。

10月給与の注意事項

  1. 9月より厚生年金保険料率が改定になっています。
  2. 平成29年都道府県別最低賃金が確定しました。最短で平成29年10月1日からの適用になります。最低賃金をベースにパート・アルバイトの給料を決めておられる事業所様はご注意下さい。

ひとこと

 暑さ寒さも彼岸までと言いますが、ジメッとした空気からカラッと爽やかな空気に変わったように感じます。最近は春・秋が短くなっているような気がしますが、少しの間、過ごしやすい季節になり嬉しいですね!台風が来ないことを祈るばかりです。

 さて今年も最低賃金の改定時期となり、「地域別最低賃金」が決定されました。「東京:958円(昨年932円)」「千葉:868円(昨年842円)」「埼玉:871円(昨年845円)」と近県では26円のアップとなります。最低賃金を目安にパート・アルバイトの時間給を決めている会社にとっては、ご負担が増します。こうなると外注の活用やシステムの設備投資など、業務の効率化をさらに進める必要がありそうです。

 残業時間の上限の法制化もされる予定ですし、残業をなるべくせずに、所定労働時間内に効率よく仕事が終わる、別の見方をすれば短い時間で効率よく利益が上がる仕組みづくりしたいですね。

(所長:細川 知敬)

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