細川事務所通信

平成29年4月号 Vol.69

「過労」はサイレントキラー 体力のある人ほど注意


【月45時間の時間外労働が健康を維持できる残業ライン】

 この36協定さえ届け出るといくらでも残業させられるのかって?いやいやそんなことは絶対にありません。「時間外労働の限度に関する基準」(労働省告示)により、延長時間の上限がしっかり定められているのです。1カ月の場合は45時間、1年の場合は360時間というのが限度基準です。

 この36協定の月45時間以内という基準は、健康的な睡眠時間や心身をスローダウンする時間も考慮されており、精神医学上も非常によく考察された合理的な基準だと思います。

 1日24時間のうち、法定労働時間が8時間、昼休憩が1時間、そして平均的な通勤時間が1時間、食事や入浴、身支度、家族との団らんなどの生活時間を最低限で4時間とみなした場合、残りは10時間。この10時間の中で7~8時間の健康的な睡眠をとるためには、残業できる時間はおのずと1日2~3時間ほどになります。通勤に1時間以上かかる人もいるでしょうし、睡眠に8時間必要な人もいるでしょうから、万人が無理なく残業できる時間は1日2時間程度となります。つまりひと月で考えると、36協定の45時間におおむね一致するのです。 ~中略~

【睡眠負債や疲労が蓄積すると、身体はどうなる?】

 さて睡眠負債と疲労に話を戻しますが、長時間労働が続いてスローダウンの時間が消失し、睡眠の負債がどんどん蓄積していくと、当然ながら体にも心にも疲れがどんどんたまっていきます。

 この疲れの蓄積、すなわち「過労」は非常に怖い健康被害を生み出します。医学的知見に私の産業医としての経験も加味しながら、その恐ろしい健康被害を列挙してみたいと思います。 ~中略~

【疲労がたまったときの初期症状】

  • 夜遅くに食事をとるようになると、睡眠が浅くなるため朝の寝覚めが悪くなる。また、朝に胃もたれが残り朝食を抜きがちとなるため、午前中の仕事の能率が落ち始める。
  • 疲れのため代謝が悪くなり、体の重だるさが連日とれなくなってくる。
  • 記憶力・ヒラメキ力が低下する。機転が利かなくなる。そのためうっかりミスや初動の遅れが出始める。
  • 精神状態が不安定となりイライラや不安が高じやすくなり、仕事やプライベートの人間関係がぎくしゃくしてくる。
  • 夜になっても仕事のことが頭から離れなくなり、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなって夜に何度も起きたりと睡眠の質が劣化し始める。 ~中略~

【疲労が長期にわたって続いた場合の症状】

  • 全身倦怠感がひどくなり、頭も体もボーっとして思うように働かなくなる。仕事の効率は大幅に低下する。また大小様々なミスや人間関係トラブルがしばしば発生する。
  • 食事を楽しむ気力がなくなり、食欲が低下してやせてくる。
  • 免疫機能が低下して、風邪や感染症にかかりやすくなる。→長期的にはがんを発症しやすくなる。
  • 糖尿病、高血圧、心臓病、脳血管障害になるリスクが高まる。→最悪の場合は過労死。
  • 自律神経の働きが崩れ、動悸(どうき)、めまい、胃腸障害など体調不良が本格化してくる。
  • 正常な思考力、判断力が低下し前向きな発想ができなくなる。本格的な不眠症やうつ病が発生する。
  •  →最悪の場合は自殺。

 このように疲労の蓄積がもたらす恐ろしい悪影響は枚挙にいとまがありません。しかもこれは男女の別なく、誰にでも起こりうるれっきとした医学的な事実なのです。

【疲労は「サイレントキラー」】

 さらに恐ろしいことに、疲労はいわば「サイレントキラー」です。本人が気づかないままじわりじわりと疲れが蓄積していき、元来が丈夫で健康な人ほど決定的な症状が出てくるまで時間がかかります。そのためぎりぎりの状態になるまで気付かない人も多く、実際、過重労働面談をしていると、体力や気力がなまじある男性ほど、先述の過労の初期症状が起こっていても無頓着でまったく気づいていないことがよくあります。

 そして最も怖いのが「過労死」です。疲労が高度に蓄積すると、何の持病も持っていなかったはずの人が急に不整脈、心筋梗塞や脳出血、脳梗塞といった致命的な病気を発病して頓死してしまうことがあるのです。

 そんな事態を防ぐためには、働く人自身のセルフケアだけではなく、経営者や管理者の安全配慮に対する意識改革が大変重要になってきます。  ~中略~

NIKKEI STYLE 3月28日(火)7:47配信 より引用 奥田弘美 精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家

 大変興味深く、読みやすい記事だったので紹介させて頂きました。私も日常業務の参考とし、また事業主様方を今まで以上にバックアップするため、自分自身の体調管理の参考にできればと思いました。労働時間についての社会的な意識改革は、今後の人材活用にあたり全ての会社にとって非常に大きな要素となるはずです。是非、事業主の皆様もご参考になさってください。

4月給与の注意事項

  1. 3月から健康保険料・介護保険料が変更になっています。給与計算の際には間違いのないようにご注意ください。
  2. 4月から雇用保険料率が引き下がります。詳細は別添資料をご確認頂き、4月分の給与計算をする際には、間違いの無いようにご注意ください。

ひとこと

 ようやく改正雇用保険法が国会で成立しました。4月からは雇用保険料率・子ども・子育て拠出金率が改定となります。今年の春は改定が相次いだので、給与計算をする際にはいつも以上に注意が必要となります。ご不明点やお手伝いできることがありましたら、お気軽にご相談くださいませ!

(所長:細川 知敬)

PAGE TOP